皇統を護持するための残酷な提言

昨日6月9日、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が皇室典範と一体をなすものとして成立した。即位時点からの「象徴天皇」として多岐にわたる活動を行われ、国民からの尊敬と慕情の念を集めて来られた今上天皇陛下の御譲位が陛下ご本人の叡慮に沿って実現することは誠に喜ばしい。我々国民も来たる新時代に向けて各々が気持ちを新たにしていかなければならない。

当該法の審議にあたっては、女性宮家等の創設についての検討を政府に求める付帯決議が衆参各委員会で採択された。皇太子殿下が天皇に即位あそばされると、皇位継承者がまた一人減ることになる。現時点で50歳未満の皇位継承者が悠仁親王殿下お一人であることを踏まえて、皇統の護持に向けて真剣に考える必要が生じてきた。

民進党をはじめとするリベラル・左派の勢力においては「女性宮家」創設を推す声が強い。対して右派からは旧宮家のうち希望者を皇族に復帰させることを主張する声も上がっている。歴史的に見ても、887年に源定省みなもとのさだみが皇籍に戻り宇多天皇として即位した過去があり、皇統を維持するという観点から「旧宮家復帰」論が支持されることも少なくない。

筆者は女性宮家創設には反対の立場である。女性宮家が創設されたならば、悠仁親王殿下に万一のことがあった際に女性皇族の天皇即位、ひいては「女系天皇」への移行が行われる恐れが強いからだ。それはもはや易姓革命であり、我が国の国体を根本から揺るがすものである。皇祖神アマテラスが女神であることを根拠に女系天皇を容認する意見もあるが、そもそも天皇と国民の紐帯は神話ではないし、神話においても初代天皇は神武天皇であってアマテラスではない。神話を前提としたとしても、神武東征自体が日本・葦原中国における革命であるのだから、アマテラスを根拠に据えるのは不適切であろう。

そうとはいえ、右派の唱える「旧宮家復帰」にも手放しで賛成するわけにはいかない。まず第一に、既に民間人となっている旧宮家の子孫が皇位を継承することについては国民の理解を得ることは不可能であろう。日本国憲法下における「天皇制」—筆者はこの言葉も好まないが、文脈上用いざるを得ない—は「国民の総意」に基づいてかろうじて成立しているものであるばかりか、「天皇の尊厳や神聖は(中略)国民国家の尊厳神聖の個体的集中」であって、「天皇がこれらのものと分離し、孤立して個人的に尊厳なのではない」{以上二つの鉤括弧内の引用文は里見岸雄『万世一系の天皇』(1961年、錦正社)による}のであるから、国民の理解を得られない方策は俎上からおろさねばなるまい。第二に、これら皇統問題は、悠仁親王殿下に万一のことがあるという事が前提となっている事を念頭に置く必要がある。現在いる皇位継承者は継承順位1位から皇太子殿下、秋篠宮文仁親王殿下、悠仁親王殿下、そして常陸宮正仁親王である。悠仁親王殿下を除いて最も年少の秋篠宮殿下が、昭和天皇を上回る90歳で崩御(または薨去)されると仮定すれば、皇統が断絶するまで39年もある。旧宮家として有名な竹田恒泰あたりが皇籍復帰したところで意味はほとんどないのである。

以上二点を考慮すれば、「旧宮家復帰」を前提に未来の皇位継承者として想定すべき者は、現在悠仁親王殿下並みに若くなければならない。加えて、国民の理解を少しでも得られるよう、その者は何らかの特殊な環境に置くべきである。その手段とは出家以外になかろう。つまり、旧宮家の末裔のうち未成年者の誰かを出家させ、皇統に危機が生じた際に限って還俗の上、天皇の養子とし親王宣下及び立太子を行うしかない。

さらにもう一つの手段を提言しておく。悠仁親王殿下は今年で11歳におなりあそばされる。まもなく精通を迎えられることであろう。殿下の御身に重大事があった場合にも純粋な皇統を護持したいと考えるならば、なるべく早いうちに殿下の精子を冷凍保存すべきである。精子凍結は技術的にも確立されており、父であらせられる秋篠宮殿下の承認さえあれば実行できる。若すぎる精子は受精能力がやや劣るとされているので定期的に再度採取する必要もあろうが、殿下の生殖能力に重大な障害が生じた場合に備えては有効な手段であろう。もちろん日本産科婦人科学会のガイドラインでは、死後に本人の精子凍結を継続することは禁じられているが、皇統護持を第一に考えるならば殿下薨去後の使用も考えねばならない。

あえて書くまでもないが、上に掲げた二つの手段は当該人物の人権を極めて軽視した、まさに残酷極まりないものである。前者は親権者の同意を得るのに相当な困難を伴うだろうし、後者には医療倫理の問題が関わってくる。しかし、皇室制度そのものが現代においても非人権的であることに意を唱える者はいないだろう。皇統護持と人権が完全に両立することは残念ながらあり得ない。

もし皇統護持を第一に考えるのならば、こうした極端なスキームさえも考慮に入れる必要がある。それが嫌ならば、悠仁親王殿下を何としてもお守りせねばならない(その過程においても殿下の人権は完全には保障されない!)。「人権」を笠に着た「女性宮家」論に対抗し、国民の理解を得られない「旧皇族」を超克するために、そして何より皇統を護持するために、およそ考えられる全ての方策を検討の対象とすべきである。それほどの覚悟がない国民には軽々しく皇統護持を論じる資格はない。そんな国はさっさと共和制にでもしてしまった方がいい。